RAGだけじゃない。進化するナレッジAIの“4方式”

生成AIに“社内の知識”を活用させる、その次の話

「生成AIで、社内のナレッジを活用できるようにしたい」
そう考えたとき、まず登場するのがRAG(検索拡張生成)という手法です。

質問内容に関連する文書を検索し、その内容をAIに渡す──
ChatGPTなどでも応用されている、今もっともポピュラーな方法です。

ただし、実際の業務でRAGを使おうとすると、次のような壁にぶつかることがあります:

● 似て非なる情報がヒットしてしまい、誤った回答が出る
● たくさんの情報を渡したくても、一部しかAIに入らない

このような課題を解決するために、私たちはRAG以外にもいくつかの方式を活用しています。
今回は、ナレッジ×AIの運用で覚えておきたい4つの代表的方式をご紹介します。

検索拡張生成(RAG)とは?

まずは基本のRAG(Retrieval-Augmented Generation)から。
これは質問を受けた際、関連する社内ナレッジを検索し、その検索結果の一部をAIに渡して、回答を生成する方式です。

メリット

● 特定の文書だけでなく、広く情報を検索して使える
● 質問ごとに必要な知識だけを渡せるため、応用範囲が広い

限界1:似て非なる情報が混ざるリスク

たとえば、「製品B2024年版のトラブル対応について知りたい」とAIに聞いた場合。
RAGでは「製品B」と「トラブル対応」というキーワードに近い過去文書がヒットしますが、2023年や2025年の情報も混ざってしまうことがあります。
このように、AIが「ほぼ正しいけど少し違う」情報に基づいて回答をしてしまうリスクがあります。

 限界2:すべての情報を渡せない

もう一つの課題は、AIに渡せる情報量(=トークン)に上限があること。
大量のナレッジがある場合、AIはそのうちの一部しか読めないため、網羅的なチェックや集約には不向きです。

DAG(Direct-Augmented Generation)は、RAGと対照的なアプローチです。
これはAIに渡すナレッジを明確に指定する方式で、「この資料を読んで、この質問に答えて」といった指示をプロンプトに直接書き込む形になります。

たとえば、以下のような指示です:

「このマニュアル(リンク)をもとに、お客様からの問い合わせに対する回答を作成してください。」

DAGが効果的な場面

● ナレッジの対象が明確に決まっている(例:ガイドライン、マニュアル)
● 間違って違う情報に基づいて回答されると困る業務

当社のSolutionDeskでは、ナレッジにURLリンクが付与されているため、
このリンクをプロンプト内で指定することでDAG的な利用が可能です。

ドリルダウンRAGとは?

RAGの「関係ありそうな情報を検索する」という特性は便利ですが、“似て非なる情報”が混じってしまう問題がついて回ります。

これを防ぐために生まれたのが、ドリルダウンRAGです。

どう違うのか?

ドリルダウンRAGでは、AIに質問を投げる前に検索対象を段階的に絞り込みます。

● 製品カテゴリ → 「製品B」
● 年式 → 「2024年」
● 機能 → 「保温機能」

このように段階的に絞り込んだ後にAIが検索と生成を行うため、
「2025年の別製品に関する情報が混ざる」といったミスを避けられます。

ドリルダウンRAGが向いている業務

● 製品別・年次別に仕様が違う業務(製造業・医療など)
● 正確性が求められる技術サポートやFAQ回答

RAGよりも一手間は必要ですが、信頼できる回答が得やすいのが特徴です。

全件参照型生成(ARG)とは?

最後に紹介するのは、全件参照型生成(All Referential Generation:ARG)です。

この方式では、RAGのように「検索で上位数件を選ぶ」のではなく、
特定の条件で絞り込んだナレッジを“すべてAIに読ませる”という考え方です。

ARGが活躍する場面

網羅的なチェックが必要な業務
例:新しい手順書がチェックリストの全項目を満たしているか?

集約・比較が必要な業務
例:複数拠点から集まった業務報告の内容をまとめる

全件照合が求められる業務
例:過去のインシデントすべてと照らし合わせて、類似事例を抽出する

ARGでは、AIに「対象ナレッジを1件ずつ処理させ、中間データをつなぎながら全体を処理する」という方式を採っています。
つまり、AIを使って“全件バッチ処理”ができるのです。

まとめ:使い分けが生む、ナレッジ×AIの真価

ここまでご紹介してきたように、
ナレッジをAIに使わせるには、目的に応じた方式の使い分けが不可欠です。

方式向いている用途
DAG特定の文書に基づいた正確な対応
RAG広くナレッジを横断的に検索したいとき
ドリルダウンRAG正確な絞り込みが必要な業務(技術サポート等)
ARG全件照合・網羅チェック・報告集約など

当社のSolutionDeskでは、これらの方式を組み合わせ、
業務ごとの“最適なナレッジ×AI活用”を実現できる仕組みをご用意しています。

次回の記事では、ドリルダウンRAGやARGが実際にどのような業務で使われているのか?
事例を交えて詳しくご紹介していきます。