ドリルダウンRAGとARGで業務を変える、3つの実践例

RAGでは物足りない、現場のリアルな課題
生成AIに社内ナレッジを使わせる手法として、検索拡張生成(RAG)が注目されています。
質問に対して、関連する情報を検索し、その内容をAIに読ませて答えさせる。
便利なアプローチではありますが、実際の業務に当てはめると、次のような壁にぶつかることがあります:
● 「もっと正確に絞った情報だけを使って答えてほしい」
● 「検索結果の上位だけでなく、すべての情報をチェックして判断してほしい」
こうした現場の声に応えるのが、ドリルダウンRAGと全件参照型生成(ARG)です。
今回は、この2つの手法がどのような業務で活躍しているのか、具体例を交えてご紹介します。
① 製品サポート業務 × ドリルダウンRAG
ベテランの知識を再現し、属人化を解消するAI活用
ある製造業の技術サポート部門では、日々の問い合わせ対応においてこんな課題がありました。
「製品Bの2024年モデルで“保温機能”についての質問に答えたいのに、
AIが2023年モデルや他製品の情報まで混ぜてくる……」
これは、従来のRAGの“似て非なる情報”問題によくある事例です。
検索結果の上位が「それっぽい情報」でも、少しでも条件が違えば、誤回答につながります。
解決の鍵は“絞り込み”
そこで活用したのがドリルダウンRAG。
1. 製品型番で絞る(例:SC-372)
2. 年度で絞る(例:2024年モデル)
3. 機能で絞る(例:保温機能)
こうした複数の条件を指定したうえで、絞られたナレッジ群の中からAIが回答を生成します。
成果
● 類似情報の混入を排除し、高精度の回答が可能に
● ベテラン担当者の過去の対応履歴を活かすことで、新人でも的確な回答ができる
● 検索条件とプロンプトのパターンを標準化し、属人化が解消
現場からは「対応品質のばらつきが減った」「習熟までの時間が短縮された」といった声が上がっています。
② 手順書とチェックリストの照合 × ARG
“見落としゼロ”のドキュメント確認をAIで自動化
あるサービス業の品質管理部門では、社内ルールが年度ごとに更新されるため、
手順書や作業ガイドラインを定期的にチェックリストに照らして改訂する必要がありました。
従来は、人が手順書とチェックリストを目で見比べて照合するという大変な作業。
抜け漏れのリスクもあり、チェックに膨大な時間がかかっていました。
解決策:全件参照型生成(ARG)
ARGでは、まずチェックリスト全体を「検索ビュー」としてAIに渡し、
その上で、新しい手順書にどの項目が含まれていないかをAIに判断させます。
ARGのポイントは、AIがすべてのチェックリスト項目を順に処理すること。
RAGのように「検索でヒットした数件」だけを見るのではなく、漏れなく全件を照合できるのです。
成果
● AIによるチェックで、抜け漏れリスクを大幅に低減
● 改訂対象の絞り込みにより、作業時間が従来の1/3に
● プロンプトを再利用することで、同様の確認作業を誰でも実施可能に
「人がやると2時間かかっていた照合作業が、数分で済むようになった」と高評価を得ています。
③ 拠点別レポートの集計 × ARG
報告集約・傾向分析・改善提案まで、AIが“まとめて”対応
多拠点展開をしている企業では、各拠点から上がってくる業務報告の集約・比較に手間がかかります。
たとえば、ある流通業では、毎月20以上の営業所からレポートが提出され、
本部で分析・集計・要約を行う作業に多大な工数が発生していました。
解決策:ARG × 指示付きプロンプト
ARGでは、各拠点から提出された報告書を「検索ビュー」にまとめ、
AIに「以下の観点でレポートをまとめてください」とプロンプトで指示します。
指示例:
● 「業務上のトラブル傾向」
● 「改善提案の件数と具体例」
● 「注目すべき進捗遅延の要因」
AIは、拠点ごとの情報を全件参照しながら、それらの観点で情報を抽出・集約してくれます。
成果
● 集計表・要約文・改善提案までAIが出力
● レポート作成にかかる時間が1/5に短縮
● 作成者のスキルに依存せず、品質が標準化
「管理職が“読む前に使える”報告ができた」「報告文化が根づいた」といった変化も生まれました。
AIは“検索して答える”だけじゃない
生成AIは、ただ検索して回答を出すだけの存在ではありません。
● 必要な情報だけを、絞って答えさせる(ドリルダウンRAG)
● 全件を漏らさず確認し、まとめる(ARG)
この2つの手法を使い分けることで、属人化の解消/業務の標準化/分析の高度化が一気に現実的になります。
次回の記事では、これらの仕組みを「誰でも使える形」に変える、プロンプトのメニュー化と業務組込みの工夫をご紹介します。