なぜナレッジ共有は定着しないのか?生成AIが変える「知識の継承」の仕組み

生成AIの活用は、すでに“その先”へ
ChatGPTに代表される生成AIの登場により、業務のなかで「AIが答える」こと自体は珍しいものではなくなりました。
たとえば、製品の使い方を質問すれば、それらしい解説をしてくれる。メールの文面を依頼すれば、きれいな文章を返してくれる。
けれど、実際の業務で本当に役立つ答えをAIに出させるのは、意外と難しい。
その理由のひとつは、“企業独自の知識=ナレッジ”をAIが知らないことにあります。
インターネットには載っていない、社内ルールや過去の対応履歴、ベテラン社員のノウハウ──。
こうした「企業の中にある知」を、AIとつなぐことで、業務は大きく変わります。
その鍵を握るのが、「ナレッジ(ナレッジマネジメント)×AI」という考え方です。
ナレッジマネジメントとは何か?
ナレッジマネジメントとは、企業内に蓄積された知識やノウハウを共有・活用するための仕組みを整えることです。
この分野では、よく「暗黙知」と「形式知」という言葉が登場します。
● 暗黙知:個人の経験や勘、感覚、言葉にしづらい知識(例:ベテランの勘、対応のさじ加減)
● 形式知:マニュアルや文書など、誰でも参照・共有できる形に落とし込まれた知識
ナレッジマネジメントの基本は、「暗黙知を形式知に変える」ことです。
さらに、それをナレッジベース(社内の知識集約システム)に集め、共有・再利用可能な状態にしていく。こうすることで、属人的な知識が組織の資産になります。
なぜナレッジマネジメントは定着しなかったのか?
実は、ナレッジマネジメントという考え方は新しいものではありません。
2000年代からさまざまな企業が取り組んできました。
しかし、定着した企業は一部にとどまっています。
その理由は以下の通りです:
● 文書化の手間とスキルの壁
→ ナレッジを持っている人が“文章にする”のが難しい
● 運用が継続しづらい
→ 情報が古くなったまま更新されず、検索も難しい
● 属人化の脱却が困難
→ 結局「●●さんに聞くのが一番早い」で済まされる
このように、理想は理解されても現場で続かない、仕組みにならないという課題が大きく立ちはだかってきました。
AIと組み合わせることで何が変わるのか
そこで、今注目されているのが「ナレッジ×AI」という新しいアプローチです。
生成AIとナレッジを組み合わせることで、これまで属人化していた情報の共有や活用が、“誰でも・すぐに・簡単に”できるようになるのです。
具体的には、次のようなことが可能になります:
● 過去の対応履歴から、ユーザーガイドを自動生成
→ 対応ログを読み取り、共通パターンを抽出し、マニュアル化
● 問い合わせに対するメール文面を、社内ルールに沿って自動作成
→ 回答トーンや注意点を守りながら、迅速に返信文を生成
つまり、これまで文書化が苦手な現場でも、AIが形式知化の手助けをしてくれるのです。
さらに、ナレッジベースに格納された情報をAIが読み取り、適切な形で“回答”してくれるようにもなります。
このように、「文書を探す・読む」から「AIに聞く」へと、知識活用のあり方が変わりつつあります。
“AIが活用できるナレッジ”とは?
ただし、どんな情報でもAIが上手に使えるわけではありません。
AIが活用できるナレッジにはいくつかの条件があります:
● 形式知化されている(文書や表、手順書として記録されている)
●検索・抽出しやすい構造になっている(カテゴリやタグ、メタ情報付き)
● 誰が見ても内容を理解できるよう、簡潔で明快に書かれている
このようなナレッジを用意することで、AIはそれを正しく理解し、回答や提案に活かすことができるのです。
まとめ:ナレッジマネジメントの再発進
ナレッジマネジメントは、生成AIの登場によって“現実的な取り組み”へと再び注目を集めています。
もはや、ナレッジ活用は「できるかどうか」ではなく、「どうすれば現場に浸透するか」が問われる時代です。
AIは万能ではありません。
でも、「知っている情報を、使いやすくする」ことに関しては、とても頼れる存在です。
次回の記事では、
AIにナレッジを参照させる4つの方法──RAG・DAG・ドリルダウンRAG・ARGについて、事例を交えながら解説していきます。